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龍ヶ崎カントリー倶楽部

第89回日本アマチュアゴルフ選手権

平成16年7月6日~10日

第89回日本アマチュアゴルフ選手権
《決勝戦・観戦記》

ティーンエージャー・マッチ

 

龍ヶ崎カントリー倶楽部のティイング・グラウンドに、およそ似つかわしくない二人の少年がいた。街中で見かけても、日本アマの覇を競う二人とは、誰も信じないだろう。その童顔は、勝負の世界とは程遠かった。

李東桓(イ ドンファン)、17歳。韓国のトップ・アマ。2003年度韓国ジュニア、同アマチュア選手権優勝という戦歴も、穏やかな表情から想像できなかった。

伊藤涼太、14歳。“神童”とはやされて久しかった。2003年、中部アマ2位。岐阜県オープン、アマの部2位。そのほか、数々のプロトーナメントに出場してきた中学2年生。

ゴルフの常識を変えた少年二人の、闘いが始まろうとしていた。

7月10日、猛暑がつづいていた。第89回日本アマチュアゴルフ選手権決勝。

普通なら《マッチプレー36ホールズの死闘》と書くところだろう。だが、二人のあどけない顔がそれを許さなかった。汗をぬぐうギャラリーはいても、二人の額から汗が滴り落ちることはなかった。余分な水分が滞留しないのも、若さの特権なのか。涼しげな二人に、死闘という言葉は似合わない。

ナイス・ショットの歓声もためらわれる静寂なスタート。

李東桓は落ち着き払っていた。前半の4番、伊藤涼太がイーグルを決めても、何事もなかったように次のホールに向かっていた。取られても、次で取り返せるという、どこか自信めいたものが漂っていた。その冷静さに、敵を畏怖させるものがあった。

事実、並ばれれば次のホールで必ずアップしてきた。午前の18ホールズ、李の4アップ。ふっと気がついたらリードしていた、という風な感じだった。

午後のスタート前、伊藤涼太のキャディ末永と目が合った。氷を詰めたビニール袋で、半ズボンから出ているふくらはぎを、しきりに冷やしていた。残り18ホールズを闘う準備だった。

「勝たせたいですね」

思わず声を掛けた。

「はい、大丈夫です。相手は4アンダーで回ったと思えばいい。涼太は涼太のゴルフをやっていますから。5つくらい先に行かれても……(何とかなる)」

彼は、自分に言い聞かせるように呟いた。

プレーヤーより、彼の悲壮感が強くなるのは致し方なかった。日本中のゴルファーが注目する14歳プレーヤーに、予選ラウンドから同伴してきた末永。本人以上に、勝ちたいという気持ちが一挙手一投足に見えた。

後半のティイング・グラウンド、龍ヶ崎特有の風が吹き始めていた。涼太の飛距離では明らかにハンディになる強い風だった。

わずか3歳の違い、と言っても成長期の体力は李が凌いでいた。連日の猛暑に耐え、すでに前日まで6ラウンドをこなしてきた体力は、やや高校生に分があっただろう。

李のショットは、アマチュア離れしていた。19ホール目の1番。

スプーンの李、ドライバーの涼太、二人ともアゲンストに煽られて右手前のバンカー。二個のボールがアゴ近くに並んだ。残り175ヤード。

先に打った李のボールが、一瞬消えた。アゴなど無視したような高いボールだったのだろう。視界にとどめようがなかった。

振り向けばピン横1メートル。涼太の顔が、一瞬ひるんだように見えた。右にふかして、再びバンカー。涼太は遠く3オンすると、李のボールにOKを出した。5ダウン。

李は2番で落としても、再び4番で取り戻し、動じない。淡々とホールを進める二人に、やはり、死闘という言葉は当たらない。

涼太に、チャンスが訪れようとしていた。7番、9番、11番とバーディー。特に、11番。李は2オンしたが、涼太はグリーン右にはずした。が、やや強めのランニング・アプローチがカップをとらえた。チップイン・バーディー。歓声が期待とともにふくらんだ。

2ダウンまで攻め寄った13番、ロングホール。涼太のドライバーはセンターをとらえた。フォローの風が有利に見えた。しかし、李はスプーンで涼太のボールを置いていった。涼太の第2打、フェアウェイ・ウッド。左ガードバンカーが口をあけていた。

李のボールは二の谷手前、第2打、ミドルアイアンでグリーンをとらえた。李、難なくバーディー。

バンカーからピン左下3メートルに寄せた涼太は、はずせないパットだった。ピンの後ろに回って、跪いてラインを読んだ。勝負どころだった。が、無情にもカップをなめた。再び、3ダウン。

「13番が取れていたら……」

ギャラリーが唸った。涼太が15番を奪取して、再び2ダウンとした後の言葉だった。13番を分けていれば……。15番で1ダウンに迫っていたはずだった。差1つにもつれ込めば、という思いだったに違いない。日本の14歳の少年に声援が多いのは、当然と言えば言えた。

16番、ドーミー・ホール。先に打った涼太はグリーン横ラフ。李に余裕が生まれたのか、会心のショット。216ヤード、4アイアンの球は、高い弾道を描いてピン横1.5メートルに付いていた。

涼太は、寄らず入らず。それでも、OKは出さない。バーディーの締めならあきらめがつく、と思ったか。たとえツーパットでも、敵の最後のパットを脳裏に刻みたかったのか。

慎重にラインを読んだ李のパットは、吸い込まれるようにカップに消えた。16番、RCCのメンバーの誰もが悩む横からのライン。スライスの、見事な読みだった。

李の顔が、はじめて崩れた。常に冷静だった表情が満面の笑みに変わった。笑顔が、あどけなさを際立たせた。

一度たりとも、リードを許さなかった李に、14歳の少年は悪びれもせず握手を求めた。

「二人に拍手を送ってやってください!」

JGAの関根競技委員が叫んだ。

炎天下の5日間、142ホールズ(7ラウンドと16ホールズ)の二人の闘いは、終わった。